田部竹下酒造

試験醸造STORY

〜生まれたての酒を、この地で育てる〜

2023年1月、新しい年の始まりとともに
産声をあげた試験醸造酒。
異なる4種類の酵母を使った
「901号」「1801号」「1001号」「1701号」を、
年明けから桜の花が咲く頃にかけて
蔵出ししました。
杜氏・濱崎良太がイメージするのは、
山陰の夏の海。
陽光を反射しキラキラと輝く日本海のような、
透明感のある酒です。

#1 実直に、良いものを

目指すのは「シンプルにうまい、また呑みたくなる酒」です。現代は嗜好が多様化しています。選択肢も組み合わせも無限にある食と酒、その中で選ばれるには印象に残る華やかさが必要なのでしょう。しかし私は、わかりやすい派手さを求めていません。奇を衒うばかりでは良いものづくりの頂点には辿り着けないと考えています。造りたいのは、口にしたとき「うまい」と本能で感じてもらえるもの。落ち着いて味わえ、長く愛されるもの。時代の流れの中で求められる味は変わりますが、その瞬間、直感的に感じる魅力が今の「うまい」の正解なのだと考えています。その道のりを、共に見届けてもらえればと思います。

#2 酒に向き合い、
耳を傾ける日々

試験醸造は試行錯誤の連続。酵母のはたらきや温度を確認しに夜中にも蔵へ足を運んでいます。近年は酒造りも機械化やICT導入によるデータ管理が進んでいますが、私はあえて〝数字〟を追いません。五感で感じ、重ねた経験をもとに酒を醸す。それを大切にしたい。樽から立ち上る匂い、櫂を入れた瞬間の泡の立ち方や音など、酒が放つ複雑な情報に耳を傾け、理想の着地点を目指しています。まだその答えは出ていません。酒造りは奥が深く、簡単な道ではない。だからこそ面白いのだと思います。

#3 ベストな「うまい」を
届けるために

「酒をしぼった後から酒造りは始まる」と考えています。酒をしぼる前の工程を〝上流〟とするならば、流れの〝中流〟や〝下流〟にもこだわりたい。良い状態でエンドユーザーであるお客様にお届けできるよう、流通する際の保管も重要視しています。私たちの思いを理解してくださる販売店様にお渡しするようにしています。

#4 仲間とこの地で

私は福岡に生まれ、岡山、愛知で酒造りの経験を積んできました。初めて雲南市掛合町を訪れたときの印象は「日本の秘境」。この町には酒造りが身近にあり、家庭で味噌などを手作りする人も多い。昔ながらの発酵文化が生活の中に生き残っている。私は自分の酒造りができるなら場所は選びませんが、ここで挑戦してみたいと感じました。共に酒造りに取り組む蔵人は、現在2名。若い世代の感覚で、時代が求める味を感じながら、ものづくりの喜びを共有していきたいです。まだ先の目標ではありますが、敷地内に井戸を掘って仕込み水を摂ったり、雲南市の米農家と連携した酒米づくりにも挑みたい。地元の商店や農家、企業とつながりながら新しい展開も広げていく予定です。

「奥出雲前綿屋」を冠した酒は、生まれたばかりの赤ん坊です。
成長しながら、変化し続ける時代の中で答えを探っていきたい。
これから育っていく私たちの酒。
その道のりを、共に見届けてもらえればと思います。